【ストーリー】依田福恵さん 乳がん ステージ1 サバイバー（トリプルネガティブ）

このストーリーの目次

1. 【ストーリー】依田福恵さん 乳がん ステージ1 サバイバー（トリプルネガティブ）
2. 第1話「乳がんの確定診断」
3. 第2話「幼少から社会人になるまで」
4. 第3話「母のがん」
5. 第4話「交際相手のレントゲンに写る影」
6. 第5話「交際相手のがん」
7. 第6話「がんの転移」
8. 第7話「唐突な知らせ」
9. 第8話「全摘か部分摘出か」
10. 第9話「始まったがん治療」
11. 第10話「左胸の全摘と乳房の同時再建」
12. 第11話「抗がん剤治療と復職」
13. 第12話「色々なことが起こった2年を越えて」

第7話「唐突な知らせ」

20年余り週末夫婦のように一緒に暮らしていた孝之さん（仮名）が肺がんになり、しかも脳に転移したと連絡を受けた東京都東村山市在住の依田福恵さん（54歳、2014年当時49歳）は、2014年10月に自分の左胸に何かしこりのようなものを見つける。

母親をがんで亡くしていた依田さんは時々お風呂で自分なりの乳がんチェックをしていた。
液体石鹸を手のひらにつけて胸を手のひらで滑らせる。
洗っているのが半分、確認が半分。
しかしこの日は左胸の上の方を触った感覚があきらかに違う。
数日前に同じ場所を整骨院でほぐしてもらったから、それが原因かなと思う。
しかし、次の日もその次の日も腫れている状態に変化はない。
「とりあえず週末に、かかりつけの婦人科で診てもらおうかな？」
意外とのんきだった。

翌週、東京都杉並区にある“すずらんクリニック”を訪れた。
中年の男性医師が触診をし「確かにしこりがあるね。来週、エコーで診る先生が来るので超音波検査を受けてください」と言われた。

一方、孝之さんの安否については友人から「転移した腫瘍が放射線治療で小さくなっている」と言われ安心する。
彼は快方に向かっている。そのうち退院できるだろうから、またマンションで会いたい、そんなことを思っていた。

翌週、再びすずらんクリニックに行き予定していた超音波検査を受けた。
暗室で胸にマウスを当てられ、カチャ、カチャと撮影されながら医師に言われた。

「動いていているけど、ちょっとでこぼこしています。いまの段階では、良性なのか悪性なのか、五分五分ですね。もっと大きな病院で診てもらった方がいいと思います。どこでも紹介状を書きますよ」

その医師が国立がん研究センター中央病院に勤めていたこともありそこを紹介してもらった。
どうせならがん専門の病院で診断してほしかったから好都合だった。
依田さんはとても落ち着いていた。
母親が乳がんと胆管がん、孝之さんが肺がんと身近にがんを見ていたこともあるし、何より持ち前のしっかりした冷静な性格から、病気なら病気で早く治したいと思っていた。
すずらんクリニックの医師は親切にも診察室から国立がん研究センター中央病院に電話をかけてくれて、１０月１６日の初診の予約がとれた。

その前日の１０月１５日夜。もう日付が１６日になろうとしている時刻だった。
依田さんの携帯電話が鳴った。
「なんだろう、こんな時間に…」と思ってでると孝之さんの会社の若い社員からだった。
「こんな夜分遅い時間に申し訳ありません。実は社長（=孝之さん）が今日、亡くなられました」
まるで谷底に突き落とされるかのような連絡だった。

この記事の著者

大久保 淳一(5yearsプロフィール)

日本最大級のがん患者支援団体 NPO法人5years理事長、本サイト（ミリオンズライフ）の編集人。
2007年、最終ステージの精巣がんを発病。生存率20％といわれる中、奇跡的に一命をとりとめ社会に復帰。自身の経験から当時欲しかった仕組みをつくりたいとして、2014年に退職し、2015年よりがん経験者・家族のためのコミュニティサイト5years.orgを運営。2016年より本サイトを運営。
現在はNPO法人5years理事長としてがん患者、がん患者家族支援の活動の他、執筆、講演業、複数企業での非常勤顧問・監査役、出身である長野県茅野市の「縄文ふるさと大使」として活動中。
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