【インタビュー】がんと仕事とお金の注意点すべきポイント(大塚美絵子さん)

『ガンと仕事、そしてお金』。大塚美絵子さんインタビュー記事

目次

基本情報

名前:大塚美絵子さん
年代:50代
病名:卵巣がん(漿液性)
進行ステージ:ステージIIIC
受けた治療:術前化学療法 3回、手術(子宮および付属器全摘+大網切除+骨盤および腹部リンパ節郭清)術後化学療法 3回治療期間:2012年7月 ~2013年4月

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発症とほぼ同時期に退職したのですね。経緯をお願いします。

会社とはいろいろありまして、2012年6月に退職を決めましたが、諸事情で辞令は7月末づけでした。退職の合意後、次の準備等のために有休を消化していたら、6月下旬からお腹が膨れはじめ(腹水でした)7月に入ると体調が急激に悪化、病院に行ったところ“がん”が見つかりました。

退職を決めた後、有休消化中に“がん”が見つかったのですね。それから退職までに出社しましたか?

7月に入ると坂を転げ落ちるように悪化し、七夕の頃は動くのが難しくなりました。診断結果をきいてそのまま入院、7月は一日も出社できぬまま職場から消えました。残務処理は会社の方に病院に来てもらって行いました。これが後に傷病手当金を受給する上で非常に重要な意味を持ったことは後から知りました。

大塚さんの場合“がん”が、退職理由ではないけれど、時期が重なったこともあり、「がんと就労」の問題に詳しくなっているのですね。

前職が、人事面を含めた会社のコンプライアンスの助言だった上に、退職に伴っていろいろハプニングに遭遇してしまい、かなり調べました。ですから、「病気と仕事・就労」の制度面には詳しいです。

なるほど。では、働き盛りの人ががんを告知された場合、どんな点に注意すべきですか?

働く世代の方ががんを告知された時は、治療のこと/仕事のこと/家庭のこと/お金の
心配と、多くの問題が一度におしよせパニックになります。まずは、冷静になることです。そして一つ一つ問題点を整理する必要があります。

たしかに、一度に問題が押し寄せますね。では、お仕事の問題に対処するには、どうすればよいと思われますか?

患者は、まず、会社の就業規則を直ちに入手する必要があります。
休暇取得や、休職、復職の条件や手続きなど会社とのコミュニケーションの出発点となりますので、就業規則は大変重要です。規程は、お願いすれば、人事の方が渡して下さるはずですし、会社のポータルサイトからもダウンロードできます。

体験上、他に会社とのコミュニケーションをとる上で大切と思われる事は?

ポイントが3つあります。

  1. 所属部署の同僚および上司;この人達の理解と協力は絶対に欠かせません。
  2. 人事(or 総務部);会社の制度や書類申請についてサポートしてもらいます。
  3. 産業医;専門的な内容について主治医と会社の仲介役を担ってもらいます。

この方たちとうまくコミュニケーションをとる必要があります。

では、うまくコミュニケーションをとる、というのは具体的にどんな事でしょうか?

メールだけでなく、できるだけ直接会って話すことが重要だと思います。脱毛の真最中などは勇気がいりますが、そこは頑張りどころです。メールだけだと、がん患者の看病経験のない人には状況の深刻さが理解できません。

私も同じ意見です。ある女性患者さんの例ですが、会社とのやりとりを人事との短いメールだけですませていたら、所属部署の上司が復職意思を疑いだしてクビになりそうに。その頃は体調も悪く出社できる状態ではなかったが、外来には通院していた。勇気を出して会社まで行き、上司の前で鬘もとって直接話したらようやっと状況を理解してもらえた。「上司または同僚と直接会って話す、積極的にコミュニケーションをとるのは大切だと思います」と話してくれました。

これについて、補足されたいことはありますか?

直接会うことは重要ですが、面会場所に注意が必要です。骨髄抑制が強い時など、感染の危険を冒してまでオフィスに出向くのは本末転倒です。また、退職することになった場合、退職日直前に出社すると、退職後に傷病手当金がもらえなくなるという大きな落とし穴もあります。従って、①感染の危険を回避し、②傷病手当金のもらい損ねを避けるため、病院または自宅近くで面会するのが、私のお勧めです。

一方で「正直に申告して退職を迫られるのが怖い。隠したままにしておきたい」という相談もうけますが、そういう方にはどうアドバイスをしますか?

もし、“がん”を理由に会社が退職を迫った場合、労基署に通報したら一発レッドで企業の負けです。だから、がんの申告=即退職勧奨という事態は、今はないはずです。
そうは言っても、会社の方は対応に戸惑う事が少なくありません。復職への理解や受入れ態勢もまだまだ不十分です。ですから、会社の方に条件交渉のテーブルについてもらい、よりよい復職プログラムを作り上げるために正確な状況報告が必要です。
離職防止支援も充実してきていますので勇気をもって申告することを私はお勧めします。

但し、後日談がございまして、地方にお住まいの「同病者」から意見を頂きました。
彼女は、再就職先を探すにあたり病歴・病名を明かしたときは全部落ちたそうです。
それで、病気のことに言及するのをやめたら採用されたそうです。
「申告すべきというのは、職場が選べて、“がん”に対する理解も進んでいる都会の論理」
と指摘されました。また、都市圏でも、病気について話をしたら、職場の方が必要以上に気を使うようになり、かえってプレッシャーになったという方も少なからずおられます。
こういった状況の存在もまた、「現実」です。この問題の難しさを痛感しています。

会社とのコミュニケーションを支援してくれる機関などはありますか?

はい、頼りになる存在が二種類ございます。
1.がん相談支援センター
がん治療をするような病院なら大抵あります。仮になくても、近くのがん拠点病院にならあるはずです。その病院の患者でなくても相談に応じ支援をしてくれます。
また、医療関連だけでなく、お仕事の悩みについても対応してくれます。ですから、
一番身近な支援センターにかけこむことがお勧めです。

相談支援センターには、会社とコミュニケーションがうまくいかない場合に支援を頼めばよいということですか?

いいえ、たとえ、コミュニケーションがうまくいっている場合でも、相談するとよいでしょう。
交渉ポイントや、条件(休職期間/復職プログラム)の世間相場を教えてもらえるなど交渉円滑化に役立ちます。

私は支援センターを利用したことはないですが、支援センターは、「就業規則に規程がない場合にどうすべきか」という知識をもっているのですか?

勿論、それもあります。支援センターの方のお話では、実際に相談を処理し、その他に
事例研究会なども行っているそうですよ。

そういえば、産業医の方は、主治医や相談支援センターと話をして、患者さんの状態を確認しているそうですね。ですから、患者の側も、相談支援センターの方に自分の置かれている状況を予め知ってもらうのも手かもしれません。

もう一つの柱は?

2.政府や自治体の労働相談ですね。こちらはとりわけ、会社とのコミュニケーションがうまくいかないときに力になってくれます。
がん患者の就労・復職について経験の少ない事業所に標準例などを教えてくれますし、
また、会社が法規の解釈を誤った場合には、修正を指導してくれます。(私はこれで救われました)公的機関の意見や指導は会社側も尊重してくれます。

私は、事業所が非協力的であった事例をあまり知りません。それでも、がんをきっかけに仕事を辞める方は少なくありません。その点、どう思いますか?

日本人は周囲に遠慮して自分から身を引く人が少なくありませんが、なるべく辞めないでほしいですね。
一つは、自分が困るということ。失業手当が受けられない場合があるのです。
二つには、今は復職支援の機運が高まっているので、自分では退職やむなしと思っても、会社は意外にも復職に前向きな可能性があります。また、会社が消極的でも、外部機関の支援により復職が可能になることもあります。
三つには、今は治療成績があがっているので、思ったより予後がよいという事がじゅうぶんにありえます。「あれ?会社辞めちゃったけど働けるじゃないか?」という事態が生じるのです。ところが一度会社を辞めてしまうと、年齢的に再就職が厳しいです。

「会社を辞めたい」という気持ちは、治療半ばで体調が悪いときに生じるように思います。時間が経てば体調が戻る可能性がじゅうぶんにあるのに、具合の悪い時に悲観して辞めるのは勿体ないと私は思いますが、その辺はどうですか?

その通りです。具合の悪いときはどうしても弱気になりますが、医療の進歩はすばらしく、時間の経過により、思った以上に回復します。それに加えて、長期休職はお互いさまなのです。元気になって戻ったら、今度は他の方が親の介護や自分の病気で休職せざるを得ないというケースがしばしば起こります。働き盛り・がん年齢とはそういう年代です。これからの社会、「かわりばんこ」の可能性が大きいです。

甘えられるところは甘えてくださいということですね。

給付についてもご経験があるかと思いますが。

療養生活の最大の支えは傷病手当金です。これはお勤めの方の療養が長期化し、給与が減らされたり受けられない場合の生活を補償する制度です。
支給要件が4つあります。

  1. 業務外のケガ・病気
  2. 連続して3日以上就労不能
  3. 就労不能である旨の医師の診断書
  4. 給与が減額または支給されない

④は会社次第ですが、①②③は大抵のがん患者さんは満たしています。これは健保(または共済)組合から支給されます。ただ、残念ながら国保の加入者には出ませんし、加入している組合により条件や申請書の書式にも多少差があるようです。

では、お勤めの方が退職した場合は?

傷病手当金は、在職中だけでなく、退職後も継続することができます!!(最初の給付から通算して18ヶ月まで)

休職・退職にかかわらず傷病手当金が支給されるのですね。健保や共済組合に加入している職場にお勤めの方にはありがたい制度ですね。

はい、傷病手当金は、病気になった勤め人はありがたい制度です。ところが、要件や手続きについてあまり広く知られていません。私も、制度をよく知らなかったばかりに受給までに大変に手間取りました。

どのような苦労をされたのですか?

私は退職時、傷病手当金の制度を知りませんでした。人事も教えてくれませんでした。入院中、同室の患者さんに「あなたは受けられるはずよ。申請してみたら?」と言われて、問い合わせたのです。そうしたら、人事の方に「あなたは要件にあてはまりません。」と突っぱねられてしまいました。しかも、私にはまったくあてはまらない健保組合の規程が参考資料としてFAXされてきました。「おかしいな」と思いつつも、「ガン保険もあるし、失業手当をもらえばいいや」と思い直し、呑気に構えていました。

退職しても失業手当がもらえれば、当面はしのげますね。

はい、そのつもりでハローワークに行きました。抗がん剤の副作用で頭はハゲハゲ、膝の関節痛もひどかった頃でした。お盆の猛暑のなかをフラフラになりながら窓口にたどり着いたら、
「あなた、そんな状態で働けるのですか?失業手当はね、就労の意思と能力のある人に対して支給されるものです。病人には支給できません。受給したければ、主治医から就労可能の診断書をもらってから来てくださいっ!!」と言われてしまいました。

治療中は「就労の能力がない」とみなされて失業手当がもらえないのですか?

就労の「能力がない」というのは法律用語で「一般的にいって働ける健康状態にないこと」を指します。語感が悪いですよね。開腹手術後や抗がん剤治療中は、法律上の意味で、「能力がない」に該当し、失業手当が受取れない場合が多いのです。

退職したのだから当然失業手当もらえると思ったら、実はもらえなくて驚いたということですね。

驚いたではすまされません。谷底へ突き落された感じでした。私はその時、第一回目のケモが終わったばかりで、手術できるかどうかすらわかっていなかったのです。そんな中、傷病手当金は支給できないと言われ、アテにしていた失業手当ももらえないと言われ・・・目の前が真っ暗になりました。

病気退職の人は失業手当が受けられないというのは知りませんでした!それは慌てますね。どうされましたか?

それで考えてみたのです。健康な人が退職した場合は失業手当を受けられる。ところが病気で退職したら、公的な生活支援が受けられない。支援の必要度が高い方が圧倒的に不利になってしまいます。そんな仕組みになっているはずはない。それで、時間があるのをよいことに、いろいろと調べることにしました。

どうやって調べたのですか?

あちこち窓口を訪ねました。まずは市役所の医療・福祉窓口に行きました。ところが、ここの説明が要領をえない・・・。市役所は国保しか扱っていないので、傷病手当金に詳しい担当者がいなかったのです。

次は県庁に赴きました。県は市よりも医療についても所掌事務の幅が広く、ここでやっと制度と制度の関係について納得のいく説明をうけることができました。

どんな説明でしたか?

“失業手当は、働ける状態にありながら仕事がない人の職探しを支援する制度なので、今のあなたには支給できません。病気の方への給付は、まず傷病手当金です。あなたは会社の健保の傷病手当金の退職後給付の対象になると思われるので、もう一度会社に確認してください。
もし、会社から給付が受けられるなら、同時に失業手当の受給期間延長の手続きをとってください。これは期限が厳しいので気をつけてください。
 また、もし会社健保の傷病手当金が受けられない場合は、失業手当に代わる傷病手当の受給を選択することもできます。” という説明でした。

それで、会社にもう一度確認して、傷病手当金を支給してもらったのですか?

それが、会社がとりあってくれなかったのです。「あなたは要件を満たしていません」を繰返し、まったく相手にしてくれませんでした。傷病手当金の制度は健保組合の所掌事務なのです。会社人事は、組合規程の解釈に習熟しておらず、支給要件の解釈を間違ったままそれに気づいていなかったそうです。

結局、傷病手当金は諦めた?

いいえ、何とかして受給しようとして、都の労働相談に泣きつきました。埒があかないので、都の労働相談員から会社に電話を入れてもらったのです。そうしたら、人事は一秒でコロッと解釈の間違いを認めました。行政指導の力をまざまざと見せ付けられました。

最終的に受取れましたか?

はい。都の担当者が、傷病手当金の退職後継続受給の要件の解釈について、間違えやすいポイントを会社担当者に詳しく解説してくれたようです。

さきほど、退職前に出社できなかったことが重要な意味をもったとうかがいましたがそれはどういうことですか?

退職後継続受給には、退職日時点で受給要件を満たしている事が必要となりますが、引継ぎと挨拶のために最終日だけ無理して出社したところ、要件を満たしていないと認定されて受給できなくなった例が実際にあるそうです。
私は退職の頃病状が重く出社できないまま消えました。心残りでしたが、傷病手当金受給にはそれが幸いしたのです。

県庁の説明にあった「失業手当の受給期間の延長」とはどのようなものですか?

これは、働ける状態になるまで失業手当の受給開始を遅らせる制度です。元気回復後に職探しを始めるときに心強い経済サポートとなります。
 但し、延長の申請手続きの期間制限が思ったよりキツイです。代理人や郵送による届出も受けてくれますが、副作用で参っていたり、開腹手術がはいったりすると、あっと言う間に期限が過ぎてしまいます。

さきほどの傷病手当金との関係はどうなりますか?

非常にうまく制度設計されています。がん退職した場合、具合の悪い間は傷病手当金、元気を回復してからは失業手当で生活支援という建てつけです。給付が重複することなく、長期にわたり支援が受けられます。私は副作用が激しく体力回復が遅れたので、本当に助かりました。

では、健保の傷病手当金が受けられない離職者の場合は?

その場合は確かにきついですが、(失業手当に代わる)傷病手当という制度もあります。
一定の場合、失業手当の受給開始延長と傷病手当の受給のどちらかを選択することも可能です。

いろいろ調べてみると、現行制度はそれなりに良くできているのです。この他にも、医療費補助や負担軽減などさまざまな制度があって、がん告知されてもすぐに困窮することがないように手当てされています。

ところが、せっかくよい制度があってもそれらに関する情報が行渡っていません。健保の傷病手当金の制度はあまり知られておりません。会社人事やハローワークは、各自が担当する制度については説明してくれますが、他の制度のことは教えてくれません。がん相談支援センターは横断的な支援制度の情報をもっていますが、医療以外の相談にも応じることが知られておりません。その結果、制度を俯瞰するような情報が得にくいという状況にあります。

適切に支援を受けることにより、不安材料が減って治療に集中でき、社会復帰も進みます。そのためには、患者側も各種支援制度について、一通り知識をもつべきだと思いました。

仕事やお金に関する支援は随分と多岐にわたりますね。もう一度まとめたいと思います。がんと告知されたとき、お仕事に関して患者は何をすべきですか?

はい。一番大切なのは、パニックを起こして自分から辞めると言い出さないことです。
まずは落着いて、就業規則を入手し、①所属部署の上司・同僚 ②人事(総務)③産業医と密にコミュニケーションをとり今後の方針を決める。
会社の①~③の方たちとコミュニケーションを円滑化し、最適な復職プランを作りあげるために 1)がん相談支援センター や、2)公共の労働相談 などのサポートを受けることが大切です。

療養生活を支える金銭的な給付にはどんなものがありますか?

第一義的には健保組合の傷病手当金です。これは、退職することになっても、要件を満たせば引続きもらえます。その他、状況に応じて受けられる助成があります。
離職することになった場合、失業手当を考えがちですが、こちらは治療中受取れないことが多いので注意が必要です。

その他補足することはありますか?

告知からしばらくの間は、どうしても弱気になり、また、治療のことで頭がいっぱいになります。それで、「退職」を口走ってしまう方も少なくありません。しかし、発症直後に退職した私は、治療中はそれに集中できましたが、終了し元気になってきた時、戻るところがなくて精神的にすごく苦しみました。お仕事は、治療を頑張る大きなモチベーションになります。ですから、辛いでしょうが、なるべく仕事を継続する方向で努力して欲しいと思います。

大塚さん、いろんなお話をありがとうございました。

取材:大久保淳一

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この記事の著者

(5yearsプロフィール)

日本最大級のがん患者支援団体 NPO法人5years理事長、本サイト(ミリオンズライフ)の編集人。
2007年、最終ステージの精巣がんを発病。生存率20%といわれる中、奇跡的に一命をとりとめ社会に復帰。自身の経験から当時欲しかった仕組みをつくりたいとして、2014年に退職し、2015年よりがん経験者・家族のためのコミュニティサイト5years.orgを運営。2016年より本サイトを運営。
現在はNPO法人5years理事長としてがん患者、がん患者家族支援の活動の他、執筆、講演業、複数企業での非常勤顧問・監査役、出身である長野県茅野市の「縄文ふるさと大使」として活動中。
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