今回のコラムは、抗がん剤の副作用で「手足のしびれ(末梢神経障害)」についてです。
抗がん剤治療を受けた人にとって、副作用とてし現れた手足のしびれが、いつまで続くのだろうか?という悩みはとてもつらいと思います。
このたび、がん経験者の皆さん(13名)に、発症後、どれくらい経って(何年)、どの程度手足のしびれが消えたか(軽減したか)をお聞きしまとめてみました。
【目次・構成】
❏ 背景
❏ 今回の13名の皆さん
❏ お断り
❏ 手足のしびれが改善した時期(何年かかったか?)
❏ 改善の仕方の情報も欲しい
❏ 手足のしびれの改善の仕方
【背景】
私は、11年前に抗がん剤治療を受け、その後、手足のしびれに苦しみました。
しびれが出る前は「何がそんなに大変なんだろう?」と軽く考えていたのですが、実際に出始めると、何とも悩ましく、鉛筆を握ってもしびれる、パソコンのキーボード操作はできないし、脚を地面につけるのも嫌だ…と絶望的な気持ちになり、つらかったです。
更に悩ましかったのは、これが「いつ」「どんな程度まで」改善されるのか解らなかったことです。
主治医の先生から「皆さん、2年くらいすると、結構軽くなると言われます」と説明されましたが、お医者さんたちは自分の身体に“抗がん剤”を投与したことがないから、どんな風に、どれくらい改善するのか知りません。
だから、実際に抗がん剤を自分の身体に入れ副作用のしびれが出たがん経験者の皆さんに「いつまで我慢すれば、どの程度改善するのか」教えて欲しかったのです。
しかし、当時はそんな情報がありませんでした。
【今回の13名の皆さん】
私が主宰する“がん患者支援団体NPO法人5years”には、「みんなの広場」という公開Q&Aがあります。そこで、「手足のしびれ」に関するご質問が数件投稿され、5yearsに登録されているがん経験者の方々から回答が集まりました。
今回は、その回答を寄せてくださった13名の皆さんに個別に「いつ」「どの程度まで」軽減されたかについてお聞きしてまとめました。
【事前のお断り】
私は本コラムで抗がん剤の副作用「手足のしびれ」に関するレポートをまとめたいと言うような大それた気持ちは御座いません。
そもそも母集団が少ないですし、所与の条件(投与量、投与間隔、投与期間等)についても解らないからです。
本来ならば、様々な条件を加味し、定性的な「しびれ」の感覚を定量的な情報に置き換え分析し報告出来たらよいのでしょうが、一方で、がん患者さんが求めているのは、学術論文のようなものではなく「他の人は、こんな感じみたいです」という幾つかのシンプルな情報ではないでしょうか。
少なくとも当時の私はそうでした。
背景に書いたとおり「手足のしびれの回復」に関しては、当時も今も、情報がないという悔しい現実があります。
本コラムは、「何も情報がない」に比べたら、とても参考になり得る生の体験情報であると信じております。
【手足のしびれが改善した時期(何年かかったか?)】
性別 | 発症年齢 | 病名 | 抗がん剤 | 痺れが改善した時期 | ||
手のしびれ | 足のしびれ | |||||
1 | 男性 | 40代 | 精巣がん | シスプラチン | 2年半 | 2年 |
2 | 女性 | 50代 | 卵巣がん | パクリタキセル、カルボプラチン | 1年半でかなり楽になり、2年半で気にならない程度になりました。 | 1年半でかなり楽になり、2年半で気にならない程度になりました。 |
3 | 女性 | 50代 | 多発性骨髄腫 | ベルケイド | 5年で半減 | 5年で半減 |
4 | 男性 | 50代 | 悪性リンパ腫 | R-CHOP | 4年経って半分程度に減少 | 4年経って3分の2に減少 |
5 | 女性 | 50代 | 乳がん | ドセタキセル | 3年 | 3年 |
6 | 女性 | 50代 | 卵巣がん | パクリタキセル | 半年 | 半年 |
7 | 男性 | 50代 | 中咽頭がん | シスプラチン | 4年 | 4年 |
8 | 女性 | 40代 | 急性リンパ性白血病 | ビンクリスチン(オンコビン) | 5年 | 5年 |
9 | 男性 | 50代 | 肺がん | シスプラチン | 半年~1年 | 2年 |
10 | 女性 | 50代 | 乳がん | パクリタキセル | 1年経って3分の1に減少 | 元々僅かなしびれでしたが、1年経って10分の1に減少 |
11 | 男性 | 70代 | 非ホジキンリンパ腫 | R-CHOP | 1年 | なし |
12 | 男性 | 50代 | 非小細胞肺がん | パクリタキセル、カルボプラチン | 半年以内 | 長期 |
13 | 女性 | 50代 | 子宮体がん | パクリタキセル、カルボプラチン | 2年経ったが、しびれが治まった感じは無し。 | 2年経ったが、しびれが治まった感じは無し。 |
【改善の仕方の情報も欲しい】
主治医から「皆さん、2年くらいすると、結構軽くなると言われます」と説明された私は、その2年間、徐々に軽くなっていくのだろうと想像したのですが、半年、1年、2年と時間が経ってもしびれの具合は変わらず焦りました。
そんな頃、同じがんを先に経験した年配の患者さんからこう言われて希望を持ちます。
「あー、俺もお医者さんから2年で良くなると言われたけど、全然そんなんじゃなくてさ、でも、3年経ったら、ある時、ふと、あれ?最近しびれていないと感じたよ」
つまり、2年ではない人もいるし、徐々に軽減するのではなく、不連続にストンと改善することもあると知り、とても勇気づけられました。
ですので、改善の仕方の情報も欲しいし、あると参考になると感じております。
【手足のしびれの改善の仕方】
性別 | 病名 | 痺れが改善した時期 | 特記 | ||
手のしびれ | 足のしびれ | ||||
1 | 男性 | 精巣がん | 2年半 | 2年 | ある時、気がついたら、しびれが無くなっていました。 |
2 | 女性 | 卵巣がん | 1年半でかなり楽になり、2年半で気にならない程度になりました。 | 1年半でかなり楽になり、2年半で気にならない程度になりました。 | 1年半かけて8分どおり以前の状態に戻りました。 |
3 | 女性 | 多発性骨髄腫 | 5年で半減 | 5年で半減 | 一番ひどかったときに比べれば少しはよくなったように思いますが、ここ2年はそう変わりません。 |
4 | 男性 | 悪性リンパ腫 | 4年経って半分程度に減少 | 4年経って3分の2に減少 | 4年たった今でも痺れがあります。体調が悪いと強くなり,良いときは軽くなるように感じます。少しずつですが、しびれは弱くなっているように思います。 |
5 | 女性 | 乳がん | 3年 | 3年 | |
6 | 女性 | 卵巣がん | 半年 | 半年 | “当初、しびれはひどかったのですが、意外と元に戻るのは早くて、治療終わって半年後にはかなり楽になっていました。 |
7 | 男性 | 中咽頭がん | 4年 | 4年 | 4年経った今もしびれは少し残っていますが、日常生活には不自由ないまでに回復しています。 |
8 | 女性 | 急性リンパ性白血病 | 5年 | 5年 | 最後の投与から7年以上経っていますが、今もしびれは残存しています。現在、痺れつつも日常生活は問題なく過ごせています。2年半前から痺れながらもジョギングを開始しています。痺れの完治は諦めていますが、心の折り合いはつけられました。 |
9 | 男性 | 肺がん | 半年~1年 | 2年 | 手の指先は半年位で消えたように記憶していますが、足の指の付け根あたりは、未だに多少しびれがあります。 |
10 | 女性 | 乳がん | 1年経って3分の1に減少 | 僅かなしびれだったが、1年経って10分の1に減少 | 足のしびれは改善し、ほとんど気になりません(もともと軽い症状でした)。手の指先は(特に右手なので)気になります。それでも、じんわりした痺れで痛いまではいきませんが、物を落としやすくなりました。 |
11 | 男性 | 非ホジキンリンパ腫 | 1年 | なし | 指先の痺れはかなりありましたが、一年ちょっとで無くなりました。 |
12 | 男性 | 非小細胞肺がん | 半年以内 | 長期 | 手のしびれは半年もしないうちに治まりました。足のしびれは11年目の今も少し残っています。慣れると忘れている位のしびれですが、しびれについて話をしたり意識するとしびれてくる感じです。 |
13 | 女性 | 子宮体がん | 2年経ったが、しびれが治まった感じは無し。 | 2年経ったが、しびれが治まった感じは無し。 | 指先のしびれも残ったままです。私の場合は足のしびれが最初からひどく、今も季節によって若干弱くなる時も有りますが、秋から冬、春先まで、痛くて眠れない時も多々あります。 |
【所感】
がん治療に向き合うとき、QOL(Quality of Life、生活の質)という言葉を聞きます。
恐らく抗がん剤治療後の手足のしびれもQOLを考えるうえで大切だと思います。
私が自身の体験を通じて感じたことは、がん患者の生活情報がないことによる精神的な不安はとても厳しいということです。
これは、各患者の体験の中にある個別の情報ですので、纏まった良いものがないのが現状です。
そんな、がん患者たちの経験に基づいた情報を表に出し、先人たちの経験をいま治療に向き合っている患者さんとご家族の生活のために役立ててもらいたい。
5yearsは、そんな挑戦を続けています。
この記事の著者
大久保 淳一(5yearsプロフィール)
日本最大級のがん患者支援団体 NPO法人5years理事長、本サイト(ミリオンズライフ)の編集人。
2007年、最終ステージの精巣がんを発病。生存率20%といわれる中、奇跡的に一命をとりとめ社会に復帰。自身の経験から当時欲しかった仕組みをつくりたいとして、2014年に退職し、2015年よりがん経験者・家族のためのコミュニティサイト5years.orgを運営。2016年より本サイトを運営。
現在はNPO法人5years理事長としてがん患者、がん患者家族支援の活動の他、執筆、講演業、複数企業での非常勤顧問・監査役、出身である長野県茅野市の「縄文ふるさと大使」として活動中。
>>新聞、雑誌、TV等での掲載についてはパブリシティを参照ください。
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